持株会社形式を用いた事業承継

持株会社とは

持株会社という名称は世間一般にもだいぶ浸透してきた感がありますが、どのようにして浸透していったのかを検証することは、時代の流れを確かめることにもなると考えます。

持株会社という名称が使われだしたのは、大企業の合併、合従連衡においてが初めてだったように思われます。
たとえば大銀行同士の合併に際して、単純に合併する方式ももちろんあったわけですが、ホールディングスカンパニー、つまり親会社として子会社の株式を持つためだけの法人を設立し、傘下の銀行の株式を引受する、こういった形でグループ化を実現し、子会社としての銀行が事実上合併したと同じ効果を追求するという方式も登場したのです。

〇〇ファイナンシャルグループといった呼称の金融コングロマリットといわれる方式は、まさに持株方式を採用した形で企業同士の再編を演出した格好になりました。
金融機関だけではなく、製造業や他の業種でも広く使われるようなスキームになりましたから、ホールディングスカンパニー、あるいは持株会社という名称は広く世間に認知されるようになってきており、相応の期間が経過するようになってきたといえます。

ホールディングスカンパニーの存在は、私たちにとってもとても身近な存在にもなってきた感があります。
すなわち、私たちが勤務している会社の周辺においてもそういった名称を冠した法人が設立されるようになってきました。

事実、地方における中小企業等においても事業承継といった局面において持株会社の形式にて事業承継を行うケースが増えてきているのです。

日本経済の屋台骨を支えている中小企業

中小企業は日本で最も多い企業の形態であり、日本経済の屋台骨を支えているのは決して大企業ではなく、寧ろ中小企業の活力が日本経済を下支えしているといっても過言ではありません。
その中小企業が、実は後継者難という問題に直面しており、私が勤務している企業においても創業者でありオーナーが実子には会社を継がせることはなく、社員に会社を承継するということになり、その継承スキームをどのようにしたらよいのかを3~4年かけて調整することになったのでした。

会社の事業承継をどうするか、そのことで障壁になるのは、株式の移転をどうするか、この問題が大きいといえます。
中小企業といえども、好業績を何年も継続していれば、取引相場のない株式であっても額面通りの株価で取引できるものではありません。

例えば額面5万円の株式を所有しているオーナー株主の株価評価をしてみたところ、好業績の連続により実際に株式をオーナーから引き取るとなると評価は10倍以上となっている等のケースも世の中にはあまたもあり、株数に応じた引取り価額を別途調達してくる必要が出てくるのです。

オーナーの親族でないものが株式を引受するということは、言葉でいうほど簡単なものではありません。
蓄えがあれば良いのでしょうが、例えば1株50万円の評価が出ていて100株を買い取るというスキームとしたとしても、なんと5,000万円もの大金が必要になってくるのです。

このような大金をオーナーの親族でもない一介のサラリーマンが到底用意できるものではありません。

取引相場のない株式の評価方式について

取引相場のない株式の評価方式は、個人対個人で売買する場合は相続税評価額が評価のベースとされ、オーナー個人から法人企業が買取する際は法人税評価額が評価のベースとなるとされています。
一般的には法人税評価額による評価は相続税評価額の評価よりも高くなり、法人が買う場合は一様に不利となります。

しかしながら、事業承継案件をソフトランディングさせるためには、このあえて高い株価でオーナーから株式を買い取りするというスキームもあってもよいスキームとされ、採用されるケースが出てきているのです。

私が勤務する企業では、まさにこの方式を採用して事業承継を完成させるに至ったのでした。
持株会社を設立し、設立の際には後継者である時期経営者数名が少額の資本金を拠出することで設立を進めます。

オーナーとの間では、法人企業との間で株式売買を進めるべく交渉し、法人税評価額によって売買金額を固めることにします。
そのうえで持株会社は株式買取資金について金融機関から融資を受けるように交渉を進めます。

企業の儲けは一体誰のものか?

子会社株式を所有するだけの目的で設立された会社ですから、本来は営業実態のない法人ではなく信用力も乏しいわけですが、子会社から親会社に対して高額の配当を出し続けるというスキームによって融資返済は可能であるという論法で進めますから、融資返済確実な案件として対応可能として融資案件として取り上げてもらうに至ったのです。

この案件を通じ、感じたことは、企業の儲けは一体だれのものかということでした。
企業の儲けは、絶対的に株主に帰属する、ということがいえるということを身をもって感じました。

上場企業等では株主が無数にいるわけですが、株主総会によって配当をもらうのはほんの僅かの部分です。
中小企業の場合は、利益蓄積のほとんどをオーナーがもっていくのです。